在来種のそばは、なぜ、おいしいのか

日本蕎麦保存会

在来種のそばが、おいしい理由

                片山虎之介 (日本蕎麦保存会)

 

【在来種のそばとは】

「在来種のそば」とは、その土地で昔から栽培されてきて、品種改良されていないそばのことです。

北海道などで栽培されている「キタワセソバ」とか、茨城県の「常陸秋そば」、長野県の「信濃一号」などは、改良品種であって「在来種」ではありません。

⬇︎ソバは品種により、大きさもさまざま。左端の大きい粒が常陸秋そば。小粒の二つは在来種です。

 

【在来種と改良品種は、どこが違うのか】

そばの品種改良は、いろいろな目的のもとに行われますが、最も重要な目的は、「たくさん収穫できるようにする」ことです。そのためには「畑で育てているそばが、同じタイミングで熟して、刈り入れできる」ことが大切です。
収穫時に、完熟した黒い実の中に、まだ未熟な緑の実が混ざっていると、その分、収穫量が落ちることになります。そういうそばは商品には適さないと評価され、検査の等級も落ちます。そうなると、せっかく収穫したそばが高く売れなくなってしまいます。
だからすべてのそばが、同じタイミングで熟すということを重要な目的の一つにして、品種改良が行われてきたのです。

 

【在来種の特徴とは】

では、在来種のそばとは、どういうものなのでしょう。
畑に、一握りの在来種のそばを蒔いたとします。
数日経つと芽が出てくるのですが、早く芽を出すものもあり、遅く発芽するものもあります。そして成長のスピードもまちまちで、早く背が伸びるものもあれば、ゆっくり伸びて背が低いものもあります。一粒一粒の個性がバラバラだということが、在来種の特徴なのです。こういう特徴を「雑駁(ざっぱく)」と呼びます。そばの研究者の間では、「在来種は雑駁だからダメだ」という言い方をされます。しかし日本そば本来のおいしさは、実は、この雑駁さの中にこそあるのです。

雑駁であるということは、その植物が、育ちにくい環境に置かれたときに、全滅せずに、どれかの粒が生き延びるための知恵なのです。
風が強い地方では、背が高く伸びるものは、強い風に倒されて、子孫を残せなくなります。雨の多い地方では、雨に弱い個性の種は子孫を残せません。さまざまな個性を持った種子の中から、その土地に合った種子だけが生き残って、その土地に適したそばの一群ができる。これが「在来種」というものなのです。

個性がバラバラな在来種のそばは、収穫するときには、完熟した黒い実も、まだ未熟な緑の実も混在した状態になります。雑駁な在来種を嫌って生産者は、少しでも収量の多い品種を求めて、次々に改良品種に切り替えてきました。そして現在では、在来種を育てている産地は、とても少なくなってしまったのです。

⬇︎収穫間近になっても、黒い実と緑の実、さらに花までもが混在する在来種のソバ。

 

⬇︎収穫したばかりのソバ。黒い実や緑の実が混ざっている。こういうそばがおいしい。

 

【在来種のそばは、雑駁(ざっぱく)だから、おいしい】

日本では、江戸時代以前から、細く切った麺線状の「そば切り」が、人々に愛されてきました。日本各地で郷土そばとして、洗練された食文化ができ、江戸の町にはそば屋が軒を並べ、国民食とまで呼ばれるようになりました。
歴史の中で食べられていたそばは、すべて「在来種」でした。まだ改良品種はできていない時代ですから、日本そばの食文化は、在来種の土台の上に組み立てられてきたのです。

江戸時代の人々が夢中になって食べていた在来種のそばは、とても美味しかったのです。
なぜ、美味しかったのでしょう。
それは「完熟した実」と「未熟な緑の実」が、混在していたからです。完熟した実の豊かな穀物の味と、まだ緑色の残る未熟な実の新そばらしいそばの香り。これが混在するところに、日本そば本来のおいしさがあるのです。
コーラスで言えば、ソプラノ・アルト・テノール・バスなど、幅広い音域の音が集まって作り出す厚みのある和音が、在来種のおいしさです。
ソプラノだけの歌声では、このようなハーモニーは、作り出すことができません。

在来種のそばだけが持っている「雑駁(ざっぱく)」という特徴。ここに日本そば本来のおいしさがあるのだということを、どうぞ忘れないでください。

 

⬇︎日本にはたくさんのそば産地があります。どこの産地も「うちのそばが一番 !」と自慢しますが、一番は日本に一ヶ所だけのはず。片山虎之介と22人の蕎麦鑑定士が実食して、日本一おいしいそばの産地を選びました。さて、それはどこの産地でしょう。クリックしてご覧ください。

 

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