関東甲信越のおいしいそば屋

《全国 おいしい蕎麦屋ランキング》 写真と文=片山虎之介

 

日本そば最大のミステリーが戸隠にある。

戸隠という場所は、不思議なところです。

なぜなら、この地の郷土そばは、二八そばだから。

信州の郷土そばは、本来、十割そばです。標高の高い地域なので、昔は米がよく育たず、農家の人々は、そばや、アワ、ヒエといった雑穀を食べていました。

だから、そば粉だけで打つ十割そばが、信州そばの基本になったのです。

 

それなのに戸隠という山深い地に、なぜ、二八そばなどという洒落たそばが郷土そばとして定着したのでしょう。

戸隠は、人里離れた場所であり、天の岩戸伝説があるけわしい戸隠山で、修験道の行者が修行をする聖地でした。

標高が高くて寒冷の地なので、米は当然ながら、栽培が難しく、ここに暮らす人々は、そばを大切な食料として食べていました。

だから、戸隠で生まれ育った年配の方の中には、子供のころから毎日、そばを食べていたので、もうそばは食べたくないという方もいらっしゃいます。

信州の中でも、ひときわ山深い場所が戸隠なのです。

 

そういう土地に、なぜ、二八そばが郷土そばとして、あるのか。

この背景には、日本そば、最大のミステリーが潜んでいるのです。

切り立った戸隠山で修行を積む修験道の聖地、戸隠には、そばの世界最大のミステリーが潜んでいる

 

戸隠のそばの打ち方は、本来の江戸そばの打ち方

戸隠に残る、そばを神様に捧げたことを記した古文書。

戸隠には、江戸時代、上野寛永寺のお坊さんが、頻繁に行き来していました。

こうした歴史の中で、江戸のそばの打ち方が、この山間の地にもたらされたのです。

これが、今に続く戸隠そばの始まりです。

 

江戸で、人々に愛されたそばは、手打ちで作られていました。

それが、江戸から明治、大正へと時代が変わる中で、製麺機が発明され、そばを作るのに機械が幅をきかせるようになりました。

この時代を境に、本来、江戸そばの打ち方として行われていた手打ちそばの技術が、徐々にすたれてきたのです。

昭和の戦後、製麺機の普及は加速し、江戸のそば打ちの技術は、ほとんど絶滅寸前の状態にまでなったのです。

 

昭和40年代から、『一茶庵』創始者の片倉康雄などの努力により、手打ちの技術が、再び、広められたのですが、このとき大きな勘違いがあり、江戸時代に行われていた、本来の江戸そばとは違う打ち方が普及してしまいました。

本来、江戸では、「一本棒・丸のし」という方法で、そばは打たれていました。

それが、効率を優先して、そばに強い圧力をかけて延す、三本棒の打ち方(麺棒を3本使う打ち方)が広まってしまったのです。

三本棒の打ち方は、効率良くたくさんのそばを作ることができるので、悪い方法ではないのですが、江戸時代に行われていた主流の打ち方は、三本棒ではなくて、「一本棒・丸延し」でした。

そばは、どのように打つかによって、仕上がった麺の味は、大きく変わります。

江戸時代の「江戸そば」と、現代の「江戸そば」は、名前は同じでも、味は、だいぶ違うものになってしまったのです。

『戸隠そば 山口屋』の山口輝文さんの「一本棒・丸延し」の技。大きなそばの生地を自在に扱う

戸隠に残った奇跡の技「一本棒・丸延し」

さて、失われてしまったはずの本物の「江戸そば」の、貴重な打ち方が、静かに守り伝えられ、残されているところがありました。

そうです、戸隠です。

山深いこの地では、江戸時代に伝えられた江戸そばの打ち方「一本棒・丸延し」が、戸隠の信仰とともに受け継がれ、現代にいたるまで、ほとんどそのままの形で継承されてきたのです。

 

だから、戸隠に残っているそばの打ち方こそ、もともと江戸時代に江戸で行われていた、本来の江戸そばの打ち方なのです。

江戸時代のそばの世界が、歴史を封じ込めた化石のように、今も、生き続けているのが戸隠です。

戸隠は、そういう意味で、世界遺産に登録されても不思議ではない、日本そばの聖地だといえるのです。

これについて詳しくは、2020年2月18日、東京・南青山で行う「蕎麦のソムリエ講座」で、片山虎之介が初公開、解説します。興味のある方は、「日本蕎麦保存会jp」より、お申し込みください。本来の、江戸時代に食べられていた江戸そばの味を、試食していただきます。

 

戸隠を代表する蕎麦店が『戸隠そば 山口屋』

創業は昭和25年。この山間地に「蕎麦屋」という営業形態が成立するには、交通の便が良くなる、昭和の時代を待たなければなりませんでした。

それまでの戸隠そばは、戸隠の神様にお供えする供物であり、この地に参拝に訪れる人々に、宿坊などで提供する食事でした。

こうした参拝客の間で、「戸隠で食べたそばは、とてもおいしかった」という話が広まり、戸隠そばの名前は、しだいに多くの人に知られるようになったのです。

 

『戸隠そば 山口屋』2代目当主は、山口輝文さん。

「一本棒丸延し」の、戸隠きっての名手です。

一本棒で打ったそばは、しなやかで、もちもち感があり、つながりが良い麺になります。滑らかに喉元を通り過ぎる、喉越しの良いそばになるのです。

この食感こそ、本来の江戸そばの味であり、日本そばの正統のおいしさなのです。

 

戸隠のそばの美味しさは、水が支えている

 

神様に捧げる「ぼっち盛り」

一本棒で打ったこのそばを「ぼっち盛り」と呼ばれる、ひと口サイズの束にして笊に盛り付けるのが、戸隠そばの、もうひとつの特徴です。

そばを茹でて洗ったあと、水の中から蕎麦を手でつまみ上げ、指先にくるりと巻きつけるようにして「ぼっち盛り」の形を作ります。

もともと、そばは神様に捧げる食べ物だったので、神様が召し上がりやすいようにという気持ちが、このような方法を生み出したのかもしれません。

奉納するときに、箸と蕎麦つゆ、薬味にそば湯をつけるかどうかは確認していません。神様もそば好きなら、仕上げのそば湯を楽しみになさっているかもしれませんね。

戸隠の水は軟水で、水温は一年を通して10℃前後です。真夏でも、そばを洗ったあと、氷で締める必要がありません。

氷で冷やしすぎると、そばの味がわからなくなってしまいます。

戸隠で食べるそばが格別においしいのは、こうした自然の背景も、大きな理由になっているのです。

 

戸隠の中社近くにある『戸隠そば 山口屋』。晴れていると窓から戸隠連山が望める

 

【 店の電話番号 】

026-254-2351

 

【 住 所 】

長野県長野市戸隠3423

 

【 アクセス 】

JR長野駅から、車で約1時間。

定期バスもあり、戸隠中社下車。

 

【 営業時間 】

9時30分~17時30分

 

【 定 休 日 】

不定休

 

【ひとり分の平均的な予算】

1500円〜

 

【 予 約 】

 

【クレジットカード】

可能

 

【 個 室 】

 

【 席 数 】

 

【駐 車 場】

あり

 

【 煙 草 】

 

【アルコール】

あり

 

【店のホームページ】

http://www.togakushisoba.com/

 

【地図にリンク】

https://goo.gl/maps/EtAdFE3zoafWL6pM9

 

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