茨城県のおいしいそば屋

茨城のソウルフード「つけけんちん」。元々は旧暦の新年に食べられていた県北の郷土料理である。けんちんの具材は里芋、大根、人参、コンニャク、豆腐、生椎茸、芋殻がメインで肉は入っていない。各家庭や店により独自のアレンジが加わるもののベースは大体こんな物である。汁は黒々として醤油感が強い濃い口。初めてこの汁を飲んだ時は思わず咳き込んでむせてしまったほどだ。とても飲めた代物では無い。案の定これは蕎麦のつけ汁であって最後に蕎麦湯で割って飲む物だと教えられ納得したものである。けんちんと言えば饂飩で育って来た者にとって、この熱々のけんちん汁に冷たい蕎麦を付けて食べるスタイルというのは、かなりの驚きと衝撃を持って迎え入れられたインパクトのある異文化体験であった。


仕事が休みのこの日、本当は天麩羅が評判の別の蕎麦屋を訪れていたのだが残念ながら臨時休業。慌てて近くの蕎麦屋をネットで検索しつつ「あれっ?そう言えばそろそろけんちんの季節だな…」という事に思い至りゴロゴロ具沢山のけんちんが美味しい奴庵さんを訪れる事にした。つけけんちんは冬季限定メニューとして提供される事が多い。なので店によって始める時期もまちまちである。あると良いな~と思いつつ一発勝負でいざ出発!
つくば市内の数ある研究所の中でも環境研と産総研に隣接する住宅街の一角で長年ひっそりと、だが確実にリピーターを増やしてきた奴庵さん。自家製粉の十割蕎麦専門店である。注文が入ってから打つ十割蕎麦は地下水で仕上げ天麩羅で使用する野菜は契約農家からの減農薬、無添加の自家菜園で賄うという拘りの蕎麦屋である。かえしに常陸太田の老舗醤油蔵元である米菱醤油の田舎醤油を使用。ほんのり甘口のつゆが本当に美味しい蕎麦屋でもある。塀を乗り越えれば目の前で営業しているのだから、ある意味研究所職員御用達とも言えるこのお店、夜は宴会や商談にも対応出来るコースも充実、研究所には外国人も多数在籍しているので外国人にも受ける日本的な美しい室礼で客をもてなしている。特にランチメニューは日替わりをはじめ十割そばとのセットメニューが実に豊富で大体1000円前後で食べられる。懐に優しいのも人気の秘密だ。

この店を訪れると初めて此処の「海老野菜天もり」を食べた時の致命的なある出来事を思い出す。此処の海老天は車海老か?!と見紛う程大振りな有頭海老を使用している。少し値は張るが圧倒的存在感で今日は祝い事か?!と見る者の心を躍らせる。以前の私はもり蕎麦を半分ほど頂き頭を折って海老天にかぶり付くもその際不本意ながら海老味噌をちゅっと吸い込んでしまったのである。それから先の蕎麦は言わずもがな…蕎麦はもう海老味噌の味しかせず我ながら何という事をしでかしてしまったのかと後悔しきりの苦い経験をしたのであった。以来此処で海老天を食べる時は要注意、蕎麦を食べ終わってからという自戒を込めてのマイルールが構築された。

海老天の話はさて置き「つけけんちん」であるが本日無事解禁。迷わずつけけんちんと鶏ハラミ炭火焼を注文する。昼を少し過ぎての入店。覚悟はしていたが案の定駐車場も一杯で暫く待つかな…と思っていたら運良く一台だけ空いたスペースに滑り込む事が出来た。店内は常連客で混みあっており初座敷への案内である。「少しお時間頂きますが大丈夫ですか?」と女将さんから気遣いの言葉。「急ぎませんので大丈夫です」相変わらず丁寧な接客である。運ばれて来た柚子味噌こんにゃくを頂き温かいほうじ茶を啜りながら店内を見渡すと壁一面に大きな水墨画や瓢箪、和箪笥に胡蝶蘭など明るく清潔感がある落ち着いた和の室礼でまとめられている。


程なくして運ばれて来た「つけけんちん」。先ずは生蕎麦をそのままで頂く。蕎麦は草の様な香りがふわっと立ち上る細麺でしっかり固めの歯応えとコシがある喉越しの良い十割蕎麦である。日に透かすとうっすら緑色で中に赤茶色の星が点在する。けんちんの具は途轍もなく大振りでゴロゴロと互いの存在感をアピールするかのようにお椀の中でひしめき合っている。前述のベーシックな具材に芋殻こそ入っていないが代わりに好物の蓮根とほうれん草が入っているのはこの店ならでは。だからついついこの店に来てしまうのである。汁は出汁が効いた甘口。天日干しの利尻昆布と本鰹宗田節混合出汁の一番出汁ならではの複雑で醤油の効いた上品な味わいは口に含むとそのままでも飲める位の濃さである。ホクホクの里芋や蓮根とつゆに浸してほんの少し柔らかくなった細い蕎麦とが一体となって喉元を通り過ぎ、胃が温まる感覚は決して空腹だからだけでは無い筈だ。何ともほっとする美味しさである。


続いて運ばれて来た「鶏ハラミの炭火焼き」は炭の香ばしい香りが食欲をそそる逸品である。ハラミは少々油が多い部位であるが炭で焼くので程よく油が落ちてジューシーに仕上がっている。添えのレモンを絞ればさっぱりと頂けるし上に乗った糸唐辛子もピリッと良いアクセントになっていてこれまた非常に旨い!
この店では温蕎麦のみ、前述の出汁に鯖節を追加してつゆを作っていると聞いている。あおさ入りとろろ蕎麦もそばがきすいとんも気になるメニューではあるが次回はシンプルにかけ蕎麦を頂いてみたいと思い店を後にした。

(レポート 玄)

 

【店の電話番号 】
029-836-7888
【 住 所 】
茨城県つくば市上原389-5
【 アクセス 】

【 営業時間 】
昼 11:30~14:30 夜 18:00~21:00
【 定 休 日 】
月3回(不定休)
【ひとり分の平均的な予算】
昼 約800円~2200円
【 予 約 】

【クレジットカード】
【 個 室 】
無(だが座敷の2部屋は襖を閉めれば各8人の個室にもなり得る作り)
対応可
【 席 数 】
約40席(座敷2部屋で4人掛けテーブルが6つ、6人掛けテーブルが1つ、他カウンター席
【駐 車 場】
有(約10台)
【 煙 草 】
分煙
【アルコール】
ビール 日本酒 焼酎
【店のホームページ】
http://yakkoan.jp/

 

 

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