手造りそば 季より (茨城県牛久市)  アンティーク調和モダンの隠れ家で味わう石臼挽き自家製粉の蕎麦と絶品和食

茨城県のおいしいそば屋

古い一軒家。入口の小さな池も枕木をあしらったアプローチも庭の植木にさり気なく吊り下げられた季節外れの風鈴やサンキャッチャーの光も何もかもが少しずつ一つずつ手作りされたその家の歴史を物語る。縁側に雑然と置かれた鉢植え代わりの石臼とそこに植えられたアボガド、縁日の金魚すくいで持ち帰ったであろう肥え太った金魚達がひしめき合う小さな水槽、赤い南天の実を啄みに来る様々な野鳥達の空を突き抜けるような鳴き声が暫し時を止め、まるで田舎の実家に帰ったかのような懐かしいあの感覚を想起させる。「季なり」さんはそんな蕎麦屋である。「隠れ家」という言葉がこれ程しっくりくる蕎麦屋も珍しい。ナビ頼り。そして看板が無ければ間違いなく素通りしてしまう店なのだから…。


この店では「粗挽きせいろ」「田舎蕎麦」「水腰蕎麦」の3種類を単品のみならずコース料理の中でも提供している。特に昼間は毎日10食限定のコース料理の前菜盛り合わせの一品一品のクオリティが高くこれを目当てに訪れる客が後を絶たない為、連日予約が取れない店としても有名である。
粗挽きせいろは産地と時期により手挽き、石臼で挽き分けて打つという拘りよう。この日の粗挽きせいろと水腰蕎麦は新蕎麦で北海道蘭越町キタワセ、田舎蕎麦は夏蕎麦で栃木在来での提供と蕎麦の実と共に掲示されている。


この日は予約で既に満席。時期的に忘年会なのか比較的年齢層高めの女子会のグループや親戚の集まりで来店する客が殆どである。前日に電話して当日一番での予約を入れて来店してはみたものの、先陣の客が捌けるまで未だ暫く待つ感じである。外のウッドデッキで日向ぼっこしながら小一時間程待ち案内されて中に入るとストーブの熱と温かな料理の香りに迎えられ冷えた体が一気に温まる。靴を脱いでスリッパに履き替え赤い毛氈が敷かれた廊下を抜けて案内された部屋はアンティークの家具や小物で彩られた落ち着きのある個室。一段落とした照明が古びた調度品一つ一つを美しく浮かび上がらせ、茶と赤を基調としたインテリアファブリックと共にシックで落ち着いた大人の空間を演出している。店内に流れるジャズの選曲も甘く、ゆっくりと囁く様な楽器の音色に暫し時を忘れてしまいそうになる。

この店ではあまり聞き慣れない「水腰蕎麦」という蕎麦も提供している。どういう蕎麦なのか一度食べてみたいと思っていたので予め前菜、自家製豆腐、石臼手挽きもり、水腰蕎麦、デザート盛り合わせからなる「千々コース」を予約しての来店である。鉄瓶で供される温かいほうじ茶を頂きながら料理の到着を待つ間、部屋に置かれた蕎麦関係の雑誌や阿部孝雄さんの作品や百迷句集などに目を通す。(店主は竹やぶで修業された方のようである)


暫くして運ばれて来た前菜盛り合わせはどれも丁寧に作られていて上品な味付けである。特にサーモンの燻製や白菜の甘酢和え、栗のような味わいの紅天使の冷製ポタージュ、そして濃厚でねっとりとした舌触りの自家製豆腐は絶品である。これから運ばれてくる蕎麦の味を邪魔しない薄味でありながら一品一品コクや香り、酸味や甘味を大切に計算されたバランスの良い蕎麦前は美味しいお酒と共に味わいたいところであるが悲しいかな、車ではそれも叶わず…。


石臼手挽きもりは粗挽きの十割蕎麦で瑞々しく香りが良い。赤茶の星が見える細麺は薄い白茶で透明感があり喉越しも良い。しっかりと弾力を感じる噛み応えでありながらスパッと歯切れも良く口の中で蕎麦の香りが広がる。


水腰蕎麦の方は、もり蕎麦よりも更に細い極細麺でまるで素麺である。顔を近づけると微かに蕎麦の香りはするものの十割の割には香りが立たず、麺同士がくっ付いてしまうので箸で手繰るのに手間取ってしまう。提供の仕方ももしかしたらこちらはつけ蕎麦よりもつゆにさらっと絡めて冷たいかけ蕎麦風の所謂ぶっかけ風にしてしまう方が良いのかもしれないなぁ…という印象。それにしても同じ十割でこれ程香りの差が出るのはどういう理由なのだろう?蕎麦の実の削り具合か?加水率が高いのか?細過ぎて香りが立たないのか?何れにせよ好みが分かれる蕎麦だと言えると思う。

つゆは鰹の出汁が効いた中濃い口。蕎麦湯と合わせると僅かにつゆが負けるかな…という感じの辛さである。本わさびと大根おろしが添えられるのだがネギは無い。先ずはもり蕎麦をそのまま口に含んで香りを楽しむ。次にちょこんとわさびを乗せて頂く。円やかな本わさびの辛さが香り豊かな蕎麦のアクセントになっていて、口に含んだつゆとの相性もバッチリである。最後に大根おろしをつゆに入れ、どっぷりと蕎麦を浸して啜り上げるのだがこれまたぶっかけ風で非常に美味しい。続いて水腰蕎麦も同様にして頂いてみる。前述のとうりこちらは大根おろしのぶっかけ風が断然似合う。つゆはたっぷりあるので鉄瓶で保温された蕎麦湯を楽しむ際には別の猪口を頂いていつもの様に先ずはそのまま、次に本わさびを溶かして〆のスープを心ゆくまで味わい尽くす。味変の楽しさを堪能出来る趣向である。


最後にデザートであるが、自家製黒糖アイスクリームの粒あん添えはキャラメリゼされた様な黒糖の香ばしさと粒あんの上品な甘さのバランスが絶妙。特に粒あんは非常にクオリティが高く一押しの逸品である。

蕎麦も料理も器一つにも手を抜かず丁寧な仕事をされている季よりさん。フレンチを味わう時の様に大切な人との会話を楽しみながらゆっくりと時を過ごすのに相応しい空間が此処にはある。たまにはこんな大人の空間で美味しい料理を頂いてみるのも悪くない。
田舎蕎麦と共に「にしん一週間ことこと煮」次回はこの気になる品を頂きにまた訪れたいお勧めの店である。

(レポート 玄)

 

【 店の電話番号 】
029-875-4891
【 住 所 】
茨城県牛久市牛久町15-2
【 アクセス 】

JR牛久駅より徒歩8分
【 営業時間 】
11:45~15:00(売切次第終了)
【 定 休 日 】
火曜日 不定休あり(月2日臨時休業有、電話にて要確認)
【ひとり分の平均的な予算】
昼 約1000円~3500円
夜 4800円のコースと6400円のコースのみ
【 予 約 】
可(予約優先)
夜の部は予約のみ(1日2組限定)19:00以降の予約はサービス料10%
【クレジットカード】
夜の部のみ可
【 個 室 】
有(6部屋全個室)
【 席 数 】
約27席 (テーブル席、ソファ席、座敷席、外にデッキ席有)
【駐 車 場】
有(店の前6台と並びの砂利地に駐車可)
【 煙 草 】
全席禁煙
【アルコール】
日本酒 ビール 焼酎
【店のホームページ】
http://www.kiyori.jp

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