そば処 手打ち 心芯 (茨城県石岡市) ビジュアルはまるでかき氷!九一で頂くふわっとろ養生そば

茨城県のおいしいそば屋

以前石岡に住む知人に「隠れた名店だよ」と教わりふらっと立ち寄った際にはまさかの臨時休業。今回はリベンジの再訪である。「心芯」さんは国道6号線から貝地の信号を右折し茨木の交差点を右折してすぐの場所で営む小さな蕎麦屋である。

昔ながらの日本家屋に増築されたのであろうか?いや、離れかな?兎に角広い敷地内の一角に設けられた家庭菜園の畑と砂利の駐車場の前に佇む一軒家にちょこんとくっ付くような形でもう一つある家が心芯さんの店舗となっている。

脱サラして蕎麦屋を始めたという店主が一人で切り盛りされている。周りには古ながらの電気屋や塗装屋、営業しているのか廃業しているのか判別不能な精肉店、古びたコインランドリーなどと並び辛うじてコンビニと呼べる店などがぽつんぽつんと点在する。

人影もまばらで、細い道の向こう側に見える山裾に果てしなく広がるノスタルジックな田園風景からは、子供の頃野原を駆け回って脳裏に焼き付いたこの時期特有の少し籠もった湿り気のある青い草の匂いが漂って来る気さえする。遥か上空では自衛隊のヘリであろうか?晴れ渡った空にバタバタバタ…とローター音を鳴り響かせ、そう遠くない所から聞こえて来るパンっパンっと干した布団を叩く音が温かい空気を撹拌する。

此処はゆっくりゆったりと時が流れる長閑な田舎町。常陸秋蕎麦の幟旗や店の暖簾が掲げられていなければこの家が蕎麦屋だと気付く者は先ずいない。知る人ぞ知る隠れ家である。


開店時間を少し過ぎての到着。下げられた山吹色の暖簾が風に煽られふわっと揺れながら客を誘う。「良かった、今日はやってる…」ホッと一息ついて安堵する。駐車場に車は無い。どうやら本日一番客での入店になるようだ。引き戸を開けて中に入ると小さいながらも明るく清潔でアットホームな雰囲気。人の温もりを感じさせない店内は風がす~っと通り抜けるようなひんやりと澄んだ空気で満たされている。瞬時に消え去ってしまうが、一番客だけが味わえる特別なもてなし。流れるBGMが蕎麦屋のイメージとは少々かけ離れた、ケーキ屋さんでよく耳にするあの愛らしいオルゴールの音色なのも何だかちょっぴり乙女チックでくすぐったい。高い天井からは小さな手毬や吊るし雛が飾られ、店主の趣味であろうか…入口直ぐのギャラリースペースには「プチ写真展」と称して山や風景写真の小さな額が幾つも展示されている。白壁と木材をふんだんに使用し切り絵や和小物と並んでそば猪口柄を染め抜いた大きな暖簾がインパクト大のお洒落で落ち着いた室礼となっている。居心地が良く、開口一番「一人で来たの?遠くからありがとね。」と声を掛けて下さる店主の気さくな人柄に未だ蕎麦を食べてもいないうちから一気に心の距離が縮まって「また来よう」という気持ちにさせられるのは私だけではない筈だ。


この店で提供するのは常陸秋蕎麦の九一蕎麦である。「芯を曲げず心を込めて美味しさを伝える」という店名にもなっている言葉どうり、店で出す素材は店主自ら全て吟味し拘り抜いた物を使っているため自ずとメニュー数も限られる。そんな中、品書きの中に「お子様用そば」(ドリンク、そばプリン付き)650円というメニューが在るのには驚いた。蕎麦屋で所謂「お子様ランチ」的セットメニューが食べられるとは!もり?ぶっかけ?玉子とじ?ミニサイズの天麩羅も付くのかな?いや待てよ、通常メニューの縮小版か?…想像するだけでワクワクしてしまう。内容がどの様な物かは計り知れないが、これは小さな子供が一緒の家族連れには有り難いサービスに違いない。この店で本物の蕎麦の味を知り食べ方を知り一人前の大人として扱われた子供はきっと蕎麦が大好きになって帰ってゆく事であろう。

人間、一番最初に口にする物は最上の物でなくてはならない。最上とは値段では無い。本物の良い素材だけが持つ味わいが、という意味である。旬や鮮度、処理の仕方は言うまでもないが何よりも大切なのは素材のクオリティである。特に子供の味覚が育つ上で五味を含め本物の味を舌に記憶させる事はとても重要で、そこにフォーカスするとは店主の蕎麦にかける思いと自信を伺わせる。

メニュー表を見ながら香り立つ温かいそば茶を啜り、そんな事を考えていると店主が「最初はやっぱり冷たい蕎麦がお薦めだよ。蕎麦の味が分かるからね。今日はちょっと硬めに打ってるから大根とろろも美味しいよ」との声掛けが。ちょうど冷たい「もり」にしようか温かい「牡蠣つけ汁」にしようか決めかねていたところ。結局店主の後押しもあり「大根とろろ蕎麦」930円と珍しい「牡蠣の天ぷらと野菜盛り」(牡蠣2個と季節の野菜5品)670円を注文する。

蕎麦の到着を待つ間も、次から次へと客が来店し開店僅か10分足らずであっという間に満席である。地元の常連であろうか?中年の夫婦二人連れの姿が目立つが、営業途中に立ち寄ったと思しき若いサラリーマンの二人連れもちらほら。ほぼ全員がもりそば大盛(+300円で大盛に変更可能)か「大根とろろ蕎麦」大盛と日替わり野菜から成る「お任せ天ぷら」を注文している。

この店の天ぷらはクオリティが高いのに目を疑ってしまうほどリーズナブルで本当に驚いてしまう。通常のおまかせ490円(日替わり野菜天ぷら5品)を筆頭に①海老天ぷらと野菜盛り670円(日替わり野菜5品と海老2本②牡蠣天ぷらと野菜盛り670円(日替わり野菜5品と広島県産牡蠣2個)③海老・牡蠣天ぷらと野菜盛り670円(日替わり野菜5品と海老1本と広島県産牡蠣1個)のラインナップとなっている。中でも推しは「牡蠣の天ぷら」で、通常フライでの提供が一般的な牡蠣も熱々を頬張るとほふっとじゅわっと天ぷらならではのさっくり柔らかな食感と味わいで、これが中々の絶品なのである。是非とも試して頂きたい一品である。


程なくして運ばれて来た「大根とろろ蕎麦」のビジュアルはまるでかき氷!細かく擦りおろした辛み大根ととろろをふわふわに混ぜ、盛られた蕎麦の上にかけられているのだが黒い器との対比も美しく見た目のインパクトもさることながらパラっとかけられた鰹節の香りが食欲をそそる一品である。しっかりと歯応えのある細麺はしなやかでありながらもスパッと切れる鋭さを持ち合わせ、メレンゲのようなふんわりと柔らかな大根とろろと共につるりと喉元を駆け抜ける。口に含むと時折見せるその棘がまるで可愛く甘えてくるかと思えば突き放すツンデレ女子のようで思わず引き込まれてしまう魅力を持っている。

そのまま塩で、本わさびと共に、鰹の効いた濃い口のつゆに絡めてとその時々で多様な表情を見せてくれるこの蕎麦は、時折ピリッと刺激的な辛さが顔を覗かせる辛み大根ととろろの組み合わせが癖になる逸品である。薄茶色の麺の中には細かい赤茶の星がぽつんぽつんと点在し、顔を近づけると蕎麦の香りがふわりと立ち上り青草のような野性的な趣も若干感じさせる非常に美味しい蕎麦である。同じ常陸秋蕎麦でも店によってこんなにも違うものなのか!と驚かされる。蕎麦は本当に奥深くその魅力は計り知れない…。

次に塩で頂く天ぷらであるが牡蠣の他にこの日の野菜は舞茸、さつま芋、ピーマン、スナップエンドウ、人参、ブロッコリーである。フリッターのような薄衣を上品に纏った牡蠣はジューシーで衣のもっちり感とも良く合う。美味っ!これだけの盛り合わせがあったらビールと共に絶対頼んでしまう無限ループの魔法スナックである。あ~思い出しただけでも食べたくなってしまう…。日替わりのお任せ野菜は種類も多くどれも素材の味を生かした天ぷらなので全然胃もたれせずに食べられてしまう。特筆すべきはスナップエンドウで、さくっとプチっと噛むそばから青々した香りと食感を楽しむ事が出来る。(これもまた無限ループの魔法スナックと言って良いだろう)この他にきゅうりの麹漬けとふきの炊いたのが付き、サービスで数量限定の黒蜜で頂く「蕎麦プリン」が提供された。どれも素材を生かし丁寧に手作りされた上品な味で〆の白濁した蕎麦湯を飲み干してからも満足感と幸福感に満たされて暫く席を立てない程であった。

この店では毎月31日を「蕎麦の日」と称して通常麺の大盛300円が無料になるサービスを行っている。そしていつもあるとは限らない復活品の「そばスナック」(1パック120円)や「わかめつけ汁蕎麦」880円、牡蠣とネギとわかめから成る「牡蠣つけ汁蕎麦」1370円など甘汁の温蕎麦も気になるところである。(つゆから想像するにきっとこの店の甘汁は美味いに決まってる!)7月~8月の夏季限定の「ぶっかけ大根とろろ蕎麦」1030円も夏野菜トッピングバージョンで提供されるとのこと。今回とはひと味違った表情を見せてくれそうでこちらも楽しみである。
次回は是非とも「蕎麦の日」に店主との会話を楽しみ、美味しい蕎麦を心ゆくまで頂きに訪れてみたいお勧めの店である。

(レポート 玄)

【 店の電話番号 】
070-4061-7031
【 住 所 】
茨城県石岡市茨城1丁目17-2
【 アクセス 】

【 営業時間 】
11:30~14:30
【 定 休 日 】
火曜日(祝日営業)
【ひとり分の平均的な予算】
約1000円~2000円
【 予 約 】

【クレジットカード】
不可(電子マネー可)
【 個 室 】

【 席 数 】
14席(4人掛けテーブルが3つ、2人掛けテーブルが1つ)
【駐 車 場】
有(約7~10台)
【 煙 草 】
全席禁煙
【アルコール】
ビール、生酒、蕎麦焼酎、ノンアルコールビール他
【店のホームページ】
http://soba-shinshin.com

 

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