蕎遊庵(栃木県足利市)美人の国 足利で頂く十割の更科蕎麦
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「十割の更科蕎麦」.その存在を知ったのは今年初頭1).ある蕎麦の達人からの情報である.JR両毛線に乗り,お店のある栃木県足利市へ蕎麦道中.足利学校で知られる歴史的教育都市の足利市.事前の下調べで知ったのであるが,足利市は美人の国でもあるらしい.厳島神社の美人弁天では「美人証明」のお守りが頂けるとか2).美人蕎麦に巡り会えることは必至だな.お国柄のいわくに胸も高まる.
目的の店は「蕎遊庵」さん.山の中腹にあるそのお店にタクシーで向かう.道中,『いつもよりかは多めに頼むといいよ.若い人にはちょっと‥』と運転手さんからの助言.お店のことを存じているご様子.蕎麦にはアンチエイジング効果があるのだろうか? 実年齢よりかは若く見られることの多い筆者.どうやらボリュームは控えめらしい.事前サーチで知り得ていたものの,厚意ある助言に一言感謝を添える.ここも人情味のある町ではないか.程なくして到着.お店は織姫神社3)の一角にあるとのこと.料金を払い,丁重に挨拶を済ませ,歩を進める.
目当ての品は「さらしな生一本(きいっぽん)」.「生一本」とは「純粋で混じりけのないこと」4).すなわち,「生粉打ち」.それを「ざる」と「冷かけ」でお願いする5).最初がざるで,次に冷かけ.頂く順番もこだわりのうち.店員さんも流暢に確認してくれた.人生2度目の「二品同時オーダー」6).控えめな体裁ならこういう奥の手があるんですよねぇ(笑).一番客で入ったものの,次々来店客が訪れる.お品書きを観覧すると「縁結び蕎麦」なる名物が!一本が紅白二色の蕎麦.神社の御利益にちなんでのことだろうか,なるほど「蕎遊庵」の屋号の如く遊び心は満載だ.
そうこう感心しているのもつかの間,最初はざるに盛られた「さらしな生一本」とご対面.『美しい‥というよりなんかかわいい』.純白に輝くお御肌と控えめなサイズ感に思わず見とれてしまう.込み上げてくる感情に震える手で箸を取り,まずはそのまま手繰ってみる.『‥失礼します』.そんな心持ちである.白く細く薄い麺線は例えるなら色白でとても華奢な美人さんである.
『‥ズズ‥ズズ‥ズズッ』.『‥‥‥.』.『!!!!』.何だろう,この食感.完全に初体験である.これまで頂いてきた更科とは全く異なるテイスト,そして余韻.蕎麦だけど蕎麦でなく,でも,他の麺類の何物とも違う.個性派だ,超個性派.筆者の脳内は『どうしよう,なんかおもしろい』との感激でいっぱいとなる.この美人さんはかわいいだけではないのだ.おもしろい娘でもあるのだ.一期一会のこの出逢いだけでは脳内を整理しきれないが,しばらく一緒にいると本気で好きになっちゃう的な,そんなおもしろさ,趣深さ,奥ゆかしさ‥.
我に返ってしばしそのまま味わうと,中途から控えめな量の辛汁につけ,すする.『うん,これはこれでよい』.つゆが控えめなのは十割更科の甘みを感じてほしいためだろうか.最後に薬味の葱と紫大根を絡めて刹那の完食である.
続いて第2ラウンド.いやぁ,こういう食事もめずらしい.1度の訪問で2度目のドキドキ.冷かけ更科とのお目見えである.添えられた山芋と青み,そして琥珀色の冷製汁.実は冷かけが限りなく一番な筆者としてはこの一品は外せなかった.
満を持して,いざ実食.『ズズ‥』と冷たい甘汁の海から十割更科をやさしく手繰る.ダシの効いた汁は返しが強すぎずいい塩梅.更科の印象に寄り添う甘汁である.「冷かけ」タイプを好む筆者としては,先刻の「ざる」よりもこちらが好み.更科と冷製汁のマリアージュを丁寧にそして慎重に堪能しつつもやはり刹那の完食である.
箸を納めてしばしの放心.余韻の中,同志に「ミッション無事クリア」のメールを一通送信して,お会計.『いかがでしたか』のご主人の問いにおいしかったとの旨の言葉を丁重に添える.昨今の事態でなければ,語り合いたいほどであるが‥.いつかの再訪を胸にお店を後にする.
お店を出ると再びの織姫神社.良縁を求めてか参拝客も意気揚々な様子.『縁結びか‥』.ふと感慨深い思いが脳裏をよぎる.そう,ここは縁結びの地であったのだ.なるほど,なるほど思いがかなうはずですね.そもそもこのお店を教えてくださった達人との縁,方向音痴な筆者を案内人の如くお店に導いてくださった運転手さんとの縁,自慢の更科蕎麦を提供してくださった蕎遊庵さんとの縁,そして何より十割更科「さらしな生一本」との縁.十分であろう,今日この日のここに至るまでの縁は十分に良縁であったと言えよう.因縁生起とはよく言ったものである7).改めてその言葉の意味に思いを馳せる(ここは神社ですけどね,まぁ,神仏習合の文化ってことで)8).形式上,お礼参りとは言えないものの,積もる感謝の思いを胸に参拝を済ませ,帰路に着く筆者であった.
(レポート提出/葉乃井)
注
1) 2020(令和2)年です.訪問は同年6月です.
2) 厳島神社 美人弁天(足利市本城2-1860).Web:http://bijinbenten.com/
3) 足利織姫神社(足利市西宮町3889).Web:https://www.orihimejinjya.com/
4) 生一本.国語辞典にも同様の記述がある.特に「酒」に使うようである.また,「気持ちがまっすぐで,思い込んだらそれに打ち込んで行く性質」として人の性格にも形容される.うん,こういう人,大好き.さすが十割更科.
5) 「ざる」といっても要するに「もり」です.海苔はありません.「冷かけ」はあくまでもそのスタイルの形容です.お品書きは「さらしな生一本 冷汁~山芋添え~」.
6) かんだやぶそば(千代田区神田淡路町2-10)で「もり(せいろう)」と「かけ」を二品同時オーダーした経験がある.ここはもともと半人前の量なので‥.
7) 仏教用語.省略したものが「縁起」.因とは果(結果)を生起させる直接の原因,縁は間接の原因である.因と縁が相互に関係し合ってあらゆる現象が生じているという意味.
8) 日本固有の神祇信仰と外来の仏教信仰とが融合調和した宗教現象.神仏混淆とも.
参考文献
新島 繁 (2011).蕎麦の事典,講談社学術文庫
西尾 実ほか (2011).岩波 国語辞典 第7版 新版,岩波書店
【店名】蕎遊庵
【読み】きょうゆうあん
【電話番号】0284-21-6818
【住所】〒326-0817 栃木県足利市西宮町2549
【アクセス】JR足利駅からお車などが理想的
【営業時間】11時00分~13時30分(2020年6月時点 短縮中)
【定休日】火曜日(祝日の場合は営業)
【ひとり分の平均的な予算】1000円~2000円
【予約】不可
【クレジットカード】利用不可
【個室】無し
【席数】38席
【駐車場】有り(足利織姫神社の駐車場)
【煙草】ダメ
【アルコール】有り(ビール,酒)
【店のホームページ】https://www.kyouyuuan.com/
【地図にリンク】https://goo.gl/maps/vfJWnmxksN5ZXUPB8
【写真の説明】
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さらしな生一本
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さらしな生一本 冷汁~山芋添え~
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お品書き(一部)
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