白いそばと黒いそば、どちらが美味しい? 日本蕎麦保存会/片山虎之介
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そばは、大きく、白いそばと黒いそばに分けられます。
そばが白くなる理由は、ソバの実の中の「でんぷん」を中心に使って、そばの麺を作っているからです。いわゆる「さらしなそば」に近い成分構成になります。
でんぷんを中心にした白いそばは、癖がなく消化も良いのですが、そば特有の風味に乏しく、個性の弱いそばになります。
しかし、穏やかな味なので、これを好む人も多いようです。
⬇︎そばの実の断面図。小さな実の中の各部分に、それぞれ特徴があります
⬇︎白いそばを作るには、ソバの殻をむいた「抜き実」を作り、これを製粉します
一方、そばが黒くなる理由は、ソバの実の外側の殻まで挽き込んだそば粉で打っているからです。江戸の昔、まだソバの実の殻をきれいにむく技術がなかったころは、黒くて硬い殻に包まれたままのソバの実を石臼に入れて粉にしました。こうするとどうしても、殻の部分まで細かく砕かれて粉に混ざってしまうことになり、打ったそばは黒ずんだ色になってしまいます。
ソバの実の「外皮」と呼ばれる殻は、もともと食べるものではありませんから、アクが強く、食べるとイガイガしたえぐみが口に残ります。決して、美味しいものではありません。
これが大量に混入したそば粉で打つと、味も良くない、消化も悪い、麺としてのつながりも悪くなるので、太い麺にせざるを得ません。
また、甘皮は難消化性のタンパク質が多いので、これをなるべく捨てずに使おうとすると、消化の悪い麺になります。
⬇︎黒い殻は、非常に硬く、石臼で挽いても粉になりにくいものです
殻まで挽き込んだそば粉で作られた黒いそばが、いわゆる「田舎そば」です。「黒くて、ブツブツ切れて、美味しくない」と言われるのには、こうした理由があるのです。
ただし黒い殻は、大量に入れるとえぐみが出て、美味しさを損ねる原因になりますが、少しだけコントロールして上手に使えば、美味しさを引き出す隠し味としての効果を発揮する強い力を持っています。
ちょうど、コショウをたくさん食べると辛くて耐えられませんが、一振り二振り、肉にかけると、美味しさを引き出してくれる最高の香辛料になるのと同じです。
色が黒いそばは、必ずまずいということではなく、要するに作る人のセンスの問題です。ソバの実のそれぞれの部分の味、効果を熟知して、上手に使えば、外見は似ていても、他の人が作ったそばとは比べ物にならないほどの美味しさを引き出すことができるのです。
その代表格が『ゴッホの二八そば』です。
これを味わうと、そばの美味しさの究極のバランスを体験することができます。