【概評】
片山虎之介 日本蕎麦保存会会長 (片山虎之介の公式HPへ)
2023年は地球温暖化が、そばにも明らかに影響を及ぼしていることを実感させられた年でした。「福井そば博2023」が11月に開催されたのですが、この博覧会に出店する予定だった島根県の出雲そばが、暑さのために収穫が遅れて、博覧会に間に合わず、出店を取りやめることになってしまったのです。
福井県産のそばは、晩生で収穫期が遅いのですが、その福井県産そばも収穫が遅れ、なんとか博覧会に間に合ったという状況でした。
福井県より南に位置する島根県のそばは、それよりも晩生ですが、予想以上に収穫が遅れて、松江市のそば屋さんもそばが不足して困っておられました。
来年の暑さは、さらに過酷なものになる可能性がありますが、どのような夏になるのか、今からとても心配です。
今年のそばの例からもわかるように、今、私たちの生きる世界は、これまでとは全く違った未知の領域に突入しています。
私たち自身と、子供たちの未来を守るための活動を開始しましょう。
今からでも遅くありません。
日本蕎麦保存会は、そばと未来を守る活動を、おし進めていきます。
⬇️「おいしいそば産地大賞2023」審査会の様子です。二日間にわたって審査を行いました。
・・・「おいしいそば産地大賞2023」ランキングを発表します・・・
「おいしいそば産地大賞」は、日本国内で生産されたそばの食味を、日本蕎麦保存会が実食して評価。最も食味が優れたそば産地を大賞と認定する賞です
【第8位】
でわかおり/山形県
山形県が作り出した、そばの傑作です。審査会では、改良品種の中では突出しておいしいそばと評価されました。
単収は、同じ山形県産の「最上早生(もがみわせ)」のほうが多くて、10アールあたりの収量が130kgもあります。それに対して「でわかおり」は、10アールあたり87kgと、「最上早生」の67パーセントしかとれません。
それでも「でわかおり」の人気が高いのは、食味に優れているからなのです。
そば屋さんで「でわかおり」の名前を見かけたら、ぜひ、味わってみてください。
【第7位】
対馬(つしま)在来/長崎県
いつの時代の出来事なのか、記録がないのでわかりませんが、遠い昔、大陸から日本にソバ(植物)が渡ってきたとき、朝鮮半島から対馬を経由したルートがあったと考えられています。
それを裏付けるように、対馬のソバを調べてみると、本州にある一般的なソバより、かなり野生祖先種に近い性質を持っていることがわかります。
当然、味にも特徴があり、在来種特有の強い風味と味を備えたソバです。
対馬には、そばの食文化も受け継がれていて、古い時代の特徴を残したそば打ちが行われています。対馬のそばは、対馬の打ち方で打つのが、最もおいしく食べる方法です。
今回の「おいしいそば産地大賞2023」では、対馬のそばの味を最も引き出す打ち方で打って、食味評価を行いました。
【第6位】
八尾(やつお)在来/富山県
他の改良品種との交雑も見られず、玄そばはとても良い状態に管理されています。他のそば産地で見かけるような、有名になると急に値段が高くなるという現象も、八尾在来には見られず、好ましい産地だと評価されました。
前回の「おいしいそば産地大賞」では、もっと高い評価を得ていた八尾在来ですが、今回、順位が落ちたのは、他の地域のそばが頑張ったからだということができます。
八尾は、おわら風の盆が行われる町です。それにちなんで、八尾のそばは「おわら風のそば」という名称で商標登録が行われました。
北陸を代表するソバのひとつという地位は、ゆるぎません。
【第5位】
松江在来/島根県
島根県の松江は、出雲そばの中心地です。そこで栽培されているのが、松江在来です。この地では、松江在来のほかに、信濃一号も栽培されています。その両方を食べ比べてみたのですが、松江在来のほうが優れていると感じました。
松江にも、古くからのそばの食文化が受け継がれていて、松江のそば屋さんのほとんどが、「一本棒・丸のし」という、日本そば本来の打ち方を守っています。
出雲そばがおいしいと評価されるためには、おいしさを支える地元の食文化の存在が欠かせません。
【第4位】
常陸(ひたち)秋そば/茨城県
改良品種の中では、収量と食味のバランスがとれた、優秀なそばです。常陸秋そばの良さを引き出すには、この大賞で上位に選ばれているような在来種のそばとは、別の使い方をする必要があります。
今回の審査会では、もちろん、常陸秋そばの良さを引き出す打ち方をして審査しました。
それぞれの産地のそばは、個性がはっきりしているため、その特徴を活かす打ち方をすると、おいしさをはっきり感じるとることができます。
【第3位】
三瓶(さんべ)在来/島根県
島根県の三瓶山の山麓で栽培されてきた在来種が、三瓶在来です。非常に小粒で、在来種の特徴を強く持つ、優れたそばです。
この「小粒」ということが、製粉作業を行なううえでは扱いにくさとなってしまい、一般的な製粉会社からは敬遠されがちです。
しかし、自家製粉をしている、やる気のあるそば屋さんが、その店ならではの個性的な味を作り出そうとするとき、三瓶在来は強い味方になります。
製粉会社が手を焼く小粒の扱いにくさを、どのように克服するかが、そば職人の腕の見せ所ということができます。
見事に使いこなせば、すばらしい結果が待っています。
【第2位】
葛巻(くずまき)在来/岩手県
岩手県の山間部に、取り残されたように残るそば処が、葛巻町です。地元の人々が、昔のやり方を大切にして、今も手を抜かずに守り続けているのが、葛巻在来と、その食文化です。
刈り入れたそばは、今も天日干しにして、製粉作業は水車を動力にした杵と石臼を併用して行います。
そば打ちの際には、豆腐と卵をつなぎに使う、郷土そばの典型ともいえる地域です。
味わってみると、強い風味とコシの強さに圧倒されます。
これが、本来の日本そばの味なのです。
【第1位】
福井在来/福井県
北陸を代表するというより、日本を代表するそばが、福井の在来種です。在来種としての品質、生産量ともに群を抜いていて、他に並ぶものがありません。
福井では「早刈りそば」が特徴のひとつですが、これを手に入れたそば職人が、早刈りそばのおいしさをしっかり引き出すことができれば、名人、名店の呼称を欲しいままにできます。
福井のそばは値段が高いと言われることがありますが、福井在来に関しては、値段が高いのは高品質のあかしです。最高の材料で最高のそばを提供したいそば屋さんに、おすすめしたいそばです。
おいしいそばに必要な特徴は、「香りの良さ」、「味の濃さ」、「しっかりした食感」ですが、実はその土台として、再認識しなければならないものがあります。
それは「清涼感」です。
そばは、さっぱりした食味こそが命です。これがそばの品格を生み出します。
「おいしいそば産地大賞2023」グランプリに輝いた福井在来は、この4つの特徴をパーフェクトに備えた、日本そばの原点と呼ぶにふさわしいそばです。
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【全国、そば収穫量】
国内で生産、収穫されるそばの量は、その年の天候などの影響を受けて、毎年、変化します。
全国の作付面積は、前年並みで、6万5,600haでした。
【10a当たり収量】
全国の10a当たり収量は61kgで、前年産を2%下回りました。
10a当たり平均収量対比は105%となりました。
【収穫量】
全国の収穫量は4万tで、前年産に比べ900t(2%)減少しました。
⬇️ そば(乾燥子実)の作付面積、10a当たり収量及び収穫量の推移(全国)
⬇️ 令和4年産そば(乾燥子実)の都道府県別収穫量及び割合
(注釈)
そば(乾燥子実)とは、食用を目的に作付けし収穫した子実であって、景観形成用として作付けしたもの等を除く。
10a当たり平均収量とは、原則として直近7か年のうち、最高及び最低を除いた5か年の平均値をいう。
出典:農林水産省Webサイト(https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/sakumotu/sakkyou_kome/kougei/r2/soba/index.html)の記事をもとに、日本蕎麦保存会が作成しました。