お取り寄せそばを、もっとおいしくする。通販のそばを美味しくするアイデア/片山虎之介
お取り寄せそば・蕎麦を、もっとおいしく楽しむ方法
写真と文 = 片山虎之介
お取り寄せそばは、蕎麦店に行って食べる蕎麦とは、別世界の楽しさがあります。
何が、どう違うのでしょう。
お取り寄せそばの醍醐味は一言でいうと、「蕎麦を、もっとおいしくアレンジできる」ところにあります。
自宅に取り寄せるのですから、あとは、どう食べても自由。極上の蕎麦を自分流にアレンジして、自分好みの蕎麦に仕上げることができるのです。
ひと手間かければ、その蕎麦を作った名店で食べるより、もっとおいしくできることを約束します。
あなたがアレンジして、おいしさを上乗せしたそばを、ご家族や大切な友人に、ご馳走してあげてください。
「こんなにおいしいそば、初めて食べた!」という驚きの声と、満面の笑みに出会えるでしょう。
自分好みの、おいしいそばを楽しんでください。
では、どうしたら、おいしくできるのか、そのコツを、これからお話しします。
ここに書いてあることを実践すれば、どこの名店で食べるよりも、あなたの『自宅庵』のそばのほうが、ずっとおいしくなるはずです。
(そば・蕎麦の文字は、わかりやすさを優先するため、両方の表記が混在しています)
《おいしいお取り寄せ蕎麦の選び方》
そばの産地にこだわる店を選びましょう
土台になるのは、取り寄せたそばです。
これがおいしくなかったら、どうアレンジしても、おいしい蕎麦にはなりません。
ですから、間違いのない、そばを選んでください。
どういう蕎麦を取り寄せれば良いのか、見分け方を説明します。
蕎麦は、そば粉で、おいしさが決まります。材料の良し悪しが、第一に重要です。
元のそば粉に香りがなかったら、どんな名人が打っても、香りのある蕎麦になるはずがありません。
だから、そば粉にこだわることが大切なのです。
「一日たっても、おいしい蕎麦」、これが、お取り寄せ蕎麦を選ぶときのキーワードです。一日たってもおいしさを持続させるために、店がどのように工夫しているのか。それを見極めれば、お取り寄せそばの良し悪しが見えてきます。
(良い例)
当店では、契約栽培した●●在来種のソバを、低温貯蔵し、必要に応じて、自家製粉しています・・・というような説明がされているそばは、店がそば粉を重視しているということです。
手打ちなのか、機械打ちなのか、明記している店を選びましょう
手打ちは、手作業でそばを作る方法で、心を込めて作れば、おいしいそばができます。
しかし、手間がかかるだけ原価が高くなります。
それでも、最高のそばを求めるなら、最後は手打ちに行き着くことになります。
機械打ちと聞くと、手抜きのイメージを持つ人がいますが、機械で作る蕎麦が、すべて悪いわけではありません。
誰が、どのように機械を使ったかという、作り方しだいで、おいしくも、まずくもなります。
機械打ちでも味に自信を持っている店は、堂々と機械打ちと書いています。こういう店は、信用できると思います。
注意したいのは、「手打ち風」とか「自家製麺」などと書いて、手打ちなのか、機械打ちなのかわからないよう、あいまいな表現をしているところです。何かをごまかすような書き方をしている店は、注意したほうが良いでしょう。
機械打ちでも、おいしい店はおいしいし、手打ちでも、おいしくない店は残念ながらあります。
「お取り寄せそば大賞」を受賞した店のそばなら、間違いなくおいしいので、試してみてください。
見た目が、おいしそうな蕎麦を選びましょう
蕎麦は見た目で、ある程度、味がわかる珍しい食べ物です。
麺の色が白いか黒いかで、でんぷんが多いのか、たんぱく質が多いのかが、わかります。ソバの実の殻も挽き込んだ製粉をしているのか、殻をむいて、丸抜きから製粉しているのかもわかりますから、そばのアク、えぐみの程度まで、ある程度、想像できます。
麺の色が淡い緑色を帯びていたら、清々しい香りが期待できるかもしれません。
グレーの麺や茶色の麺、それぞれに理由があり、味にも方向性があります。
さらに器に盛られた蕎麦を見ると、その曲線の様子で、張りとか腰が強いのか、弱いのかもわかります。ベタッとへたり込んだ麺は、見るからに腰がなさそうです。
麺と麺の間に隙間があるような蕎麦は、勢いがありますが、これが腰の強さによるものなのか、それとも硬いだけなのかを判断するには、そういう蕎麦を何度も実食した経験が必要になります。麺の表面の艶や、そば切りの太さ、細さを見ると、前に似たような麺を食べたときの感覚が、よみがえってきます。
そばの盛り付けを見ると、器の選び方や、盛り付け方で、その店の審美眼や、何を理想としているのか、あるいは、していないのかが、見えてきます。
インターネットで蕎麦の写真を見て、「あ、おいしそう!」と思ったら、その感覚を大切にしてください。直感で判断することが、実はとても重要なのです。
「見た目で、おいしそうな蕎麦」を選ぶことが、おいしいそば探しの、ひとつのコツです。
たまには読みが外れることもありますが、そのあたりは、ほかの人が食べて書いたコメントなどを参考にすると、少しだけ、リスクが低減します。
でも、どういう人が書いたのかわからないコメントは、あまり信用しないほうがいいですね。
人の言葉を頼りにするよりも、自分の目を磨いてくださぃ。
《自宅で、自分流にそばをアレンジする》
さて、ベースになる、そばが届きました。
『日本蕎麦保存会jp』で推薦している極上のそばなら、配達されたものを、説明書にしたがって、そのまま茹でて食べても、もちろんおいしく楽しめます。
しかし、せっかく、「あれがいいかな」、「これがいいかな」と吟味して、遠方から取り寄せて食べるのですから、可能な限り、おいしく食べたいものです。
自宅で食べるほうが、何倍もおいしくなる、その方法を、ご紹介します。
以下の例は、片山虎之介が、自宅で取り寄せそばを食べるとき、こんなふうにしています、という実例です。
温かいそばなら二八。冷たいそばなら十割でも二八でもOK
取り寄せそばを注文するには、まず冷たいそばとして食べるのか、温かいそばにして食べるのか、それを決めてから、そば選びをしてください。
寒い季節など、温かいそばにして食べたいなら二八そば。小麦粉のつなぎを使っているそばの取り寄せを、おすすめします。
温かい汁に入れると、十割そばは切れやすくなるので、小麦粉つなぎが入っているほうが、汁とともに麺をすする食感が楽しめます。
温かい汁に十割そばを合わせても、もちろん、おいしいのですが、少し高度な技術が必要かもしれません。
つるつるした食感を楽しみたいなら、二八そば。そばそのものの風味を楽しみたいなら十割そばにする。そういう考え方を基本に、判断してください。
茹で方は説明書を読んで、きっちり守りましょう
蕎麦を茹でるコツは、次の3つです。
〈おいしい蕎麦を茹でる3原則〉
1、大量のお湯を、沸騰させて使うこと。
2、一度に茹でる麺の量は、少量にすること。
3、茹ですぎないこと。
手打ちの生そばの茹で方は、そば乾麺の茹で方と基本は同じなので、『日本蕎麦保存会jp』の記事、「そば乾麺をおいしくする茹で方」を、参考にしてください。
ただし、生そばの場合は、茹ですぎると、せっかくのおいしさが湯に溶け出してしまうので、できるだけ短い時間で茹であげるようにしてください。麺の中心に芯が残らない、最も短い時間で湯からあげてください。
茹ですぎは、香りや味がある蕎麦の場合、最大の失敗です。
良い蕎麦ほど、茹ですぎると、香りも味も腰もない、情けない蕎麦になってしまいます。
薬味はダイヤモンド。そばの魅力を引き出します
そばを食べるとき、薬味は、美しい指にキラリと光るダイヤモンドのようなもの。そばの魅力を、一気に倍増させます。
昔から使われてきた定番の薬味としては、大根おろし、ワサビ、刻みネギ、鰹節(削り節)、刻み海苔、唐辛子などがあります。
私は、大根おろしが好きです。それも辛味大根があれば、最高。幸い、家の近くのスーパーで、辛味大根を売っているので助かります。
ネギは、縦に細く切れ目を入れてから、細かく刻むと、箸にからまることもなく、食べやすい薬味になります。
そのほかに、そばと相性のいい薬味としては、ちんぴ、梅干、くるみ、焼き味噌などが、江戸時代から使われてきました。
薬味を、どう使うかで、そばの食味は大きく変化します。江戸時代は、食材も限られていたので、上記のような薬味に限られましたが、現代は世界中から、たくさんの食材が届けられます。その中から工夫して、自分独自の薬味を探してください。
トリュフ、パクチー、ペパーミント、木の芽、岩塩、ウニ、チーズなど、使い方を工夫してください。食べられる花を添えるのも すてきです。
薬味というと一般的に、「香り」の効果を狙った食材を使いますが、もっと広く考えて、じゅんさいや、山芋を細く切ったものなどを合わせて、食感の変化を狙うのも面白いと思います。
既成概念にとらわれず、植物性、動物性、いろいろな味を試してください。
また、冷やがけのそばにすると、同じ薬味を使っても、温かいそばとは別の表情が楽しめます。
土台のそばは、名人が打った取り寄せそばなので、もうこれは、おいしさが約束されています。
それを、ちょっとメイクアップしてあげる感じで、さらにおいしい、あなたならではの、究極のそばを完成させてください。
出汁醤油で汁のバランスを整える
お取り寄せ蕎麦には、蕎麦つゆがついてきます。これを使うのが基本ですが、蕎麦つゆの味が、甘すぎたり、薄かったりして、好みに合わないこともあります。
そんなときコントロールする方法を、いくつかご紹介します。
辛汁が甘すぎると感じることは、ときどきあります。
そんなときは、濃口醤油の出汁醤油を用意しておいて、ほんの少し、辛汁に入れます。よくかき混ぜれば、一応、甘辛の微調整ができます。
辛汁が濃すぎるときは、大根おろしを絞り汁ごと、適量、蕎麦つゆの中に入れましょう。これで問題は解決するはずです。
温かい汁「甘汁」は、お取り寄せ蕎麦についてくることは少ないので、市販のつゆの素などを使って作ることになりますが、市販の汁の選び方で、温かい蕎麦のおいしさは、大きく左右されます。気合いを入れて選んでください。
市販のつゆの素は、甘めのことが多いので、そんなときは淡口醤油の出汁醤油や、白だしなどを用意しておいて、少し加えると調節できます。
冷たいそばは、おかずを楽しむことも忘れずに
冷たいそばを、自宅で食べるときは、取り寄せたそばだけでも、おいしいのですが、おかずを用意すると、さらにおいしく食べることができます。
相性の良いおかずは、まずは天ぷら。これほど、そばに似合う相棒は、他にないでしょう。
自宅で揚げたてを添えることができれば、最高です。
天ぷらのネタも、季節の旬の食材を、いろいろ見つくろって、使ってください。
私が好きなのは、春に河原の土手の木に白い房状の花をつける、ニセアカシアの花の天ぷらとか、夏には、柔らかいアスパラガスの天ぷらなどは、そばより先に箸がのびるほど、楽しみなおかずです。
まぐろの刺身、ウニなど、お好きなおかずを用意してください。
ウニは、辛汁に溶かして使うと、独特のコクが出て魅力的な食材です。
季節の山菜をサラダにしたり、和え物にして添えると、さっぱりした清涼感のあるそばには、とても良く合います。
そして、忘れてならないのは漬物。味と温度をしっかり管理した漬物は、何よりの脇役です。
自分で作れなかったら、おいしい漬物、買ってきて、用意してください。
そば湯は、とっておきのご馳走です
極上の取り寄せそばは、茹でた鍋の湯も、ご馳走です。
これを楽しまない手はありません。
そば湯だけ飲むのも、気持ちが、ほっと和むし、少し残ったそばつゆと混ぜて飲むと、そばつゆのおいしさが、もう一度、楽しめます。
ここに、ゆずなど、香りのものを少し入れると、温かいそば湯から立ち上る清々しい香りに、幸せな気持ちになれます。
ただし、濃いそば湯が飲みたいからと、少なくなった鍋の湯で、何度もそばを茹でると、吹きこぼれる危険があるので、注意してください。
自宅で飲むそば湯は、あまり濃いものを望まないほうが良いかもしれません。
そうそう、そば湯の焼酎割りなども、人気がありますね。
もう、ご存じだとは思いますが。
温かい蕎麦ならトッピングを楽しみましょう
温かい蕎麦にして食べるなら、具材、トッピングに凝りましょう。
汁を張った丼に、蕎麦を入れ、その上に乗せるなら、まず代表格が天ぷらです。エビをはじめ、いろいろなネタが楽しめます。
天ぷらの衣は、ある程度、厚いほうが、甘汁が染み込んで、あとでおいしくなります。これが、そば独特の天ぷらの楽しみ方です。
甘汁は、淡口醤油を生かして、醤油感をおさえた味にしたほうが、私は好みです。そのようにすると、蕎麦の上に乗せた具材の味を生かすこともできます。
焼き海苔を乗せてもおいしいし、「玉子とじそば」も、自宅にある食材で、蕎麦の変化球が楽しめるメニューです。
『日本蕎麦保存会jp』の記事で紹介している「まぐろアボカドそば」を作っても、意外性のあるおいしさに、驚くかもしれません。
もちろん、ゆずなどの香りの薬味は必需品です。木の芽とか、季節の香りが、極上の取り寄せそばの味を、さらに引き上げてくれます。
《郷土そばの個性を食べ比べるという楽しみ方》
二ヶ所のそば処から取り寄せたそばを食べ比べて、食文化の違いによって、おなじ「そば」という食べ物が、どれほど味が変わるのかを体験してみるのも、楽しい食べ方です。自宅でできるのですから、思い切って、好きなことをやってみましょう。
たとえば、呉汁を使って打った「津軽そば」と、昭和天皇のお言葉から名付けられた、福井の「越前おろしそば」などの食べ比べもいいですね。
どちらも「取り寄せそば大賞」で上位に入賞している、おいしいそばです。
「信州そば」と、「会津そば」の食べ比べも、面白いでしょう。
これを、冷たいそばと、温かいそばとして食べてみるのも興味深いです。
「取り寄せそば」を食べると、ご自宅のお部屋に、日本各地のそば処の風がそよぎます。
そばを通じた日本列島縦断の旅を、「取り寄せそば大賞」で、どうぞ楽しんでください。